
入社前から始まるオンボーディング【イベントレポート】ONBOARDING-SUMMIT 2021_No.1|曽和利光氏 講演
2021年10月20日(水)に開催された「ONBOARDING-SUMMIT 2021」(株式会社manebi主催)の事後レポートです。人材の定着と即戦力化を促すために行っている取り組みについて、最前線で活躍する6名の方々に各社の成功事例やノウハウをお話しいただきました。
本記事では、曽和利光氏の講演内容をご紹介します。
ONBOARDING-SUMMITについて
新入社員の定着や即戦力化のための手法である「オンボーディング」。
海外では優秀な社員の定着に向け積極的にオンボーディングが行われており、日本でも早期のカルチャーフィットや活躍を期待し、取り組み始める企業も多くなりました。
本イベントでは、組織構築やオンボーディングのノウハウを持つプロフェッショナルにご登壇いただき、オンボーディングの概念や成功の秘訣、また各社の事例をお話しいただきました。
なお、本イベントはオンラインにて実施しましたが、1000名以上の方からお申し込みいただいたほか、今回登壇された6名以外の方からも「自社の取り組みを共有したい」との熱意を向けられており、幅広い業界から関心の集まるイベントとなりました。
ONBOARDING-SUMMITは、翌年2022年に第2回の開催を予定しております。ご登壇のご連絡、皆様のご参加をお待ちしております。
各登壇者のイベントレポートはこちらから
【No.1】株式会社人材研究所 曽和利光氏:「入社前から始まるオンボーディング」
【No.2】株式会社博報堂 野村秀之氏:「博報堂のキャリア採用社員向けオンボーディングの取り組み」
【No.3】サイボウズ株式会社 勝沢賢一氏:「営業本部におけるサイボウズ流オンボーディングとは」
【No.4】freee株式会社 秋山詩乃氏:「freeeで実践する新卒と中途社員のオンボーディングの違いとは?」
【No.5】株式会社manebi 田島智也:「社員と組織の幸せを確立する共感オンボーディング」
【No.6】プロノイア・グループ株式会社 ピョートル・フェリクス・グジバチ 氏:「日本企業が新入社員を迎える際に決定的に足りないものとは?海外事例から読み解くボーディングの本質を解説!」
講演レポート No.1|曽和利光氏
本記事では、1人目の登壇者である株式会社人材研究所 代表取締役社長・曽和利光氏の講演内容をご紹介します。
登壇者プロフィール
株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏
リクルートの人事部ジェネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と人事採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で、実務やコンサルティングを経験。
また多数の就活セミナー、面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職の大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。
人事歴約20年。これまでに面接した人数は2万人以上。2011年には株式会社人材研究所を設立されています。
入社前から始まるオンボーディング
【第1章】人材定着の現状と要員
人材定着オンボーディングの前提となる内容として、まずは「人材定着がどれほどなのか」という部分からお話ししていきます。
早期退職「七五三」傾向は続行中
七五三とも言われることがありますが、中卒の方が3年間で辞めるのは7割、高校や短大の方が5割、大学は3割と言われています。
近年、中高卒はこの割合が減少傾向にある一方で、大学卒は測り始めてから3割という数字に大きな変化はありません。
大昔から言われる5月病(6月病)
新卒社員が入社してから3ヶ月以内は、いろいろな問題が起こり、早期退職してしまう人も少なくありません。
以前は5月病や6月病とも言われていましたが、ゴールデンウィークが明けると6月には祝日がないために、気分が落ち込んでしまうことも、早期退職の要因として考えられます。
典型的な症状
新入社員の典型的な症状として、「帰郷」と「セルフハンディキャップ」の二つがあります。
帰郷は私の比喩表現ですが、これは入社後に“自分が輝き、承認されていた過去の場に舞い戻ってしまうこと”です。例えば、学生の時にキャプテンとして活躍していたような過去を持つ方などがあります。
新入社員が会社に入ると一番下からのスタートになりますが、会社での成績が奮わないままでいると、過去の場に戻って後輩から持て囃されるような逃避行動を取ってしまうのです。
また、セルフハンディキャップというのは、わざと自分にハンデをつけることです。本気を出せばできる一方で、「仕事が面白くない」、「思っていたことと違う」などの理由をつけて自身の不安定を正当化してしまいます。
新入社員に「帰郷」や「セルフハンディキャップ」といった症状が見られると、危険かもしれません。
その正体は「リアリティ・ショック」
新入社員が逃避行動を取ってしまう主な原因は、入社前と入社後の「リアリティ・ショック」だと言われています。
人それぞれにリアリティ・ショックがありますが、給料や昇進のスピードといった待遇面のほか、仕事の裁量などの定性的な面などが例として挙げられます。
【第2章】なぜリアリティショックが起きるのか
社員のリアリティ・ショックを防ぐために、まずはその原因について紹介します。
アイデンティティ(軸)
就職や転職活動の際に、就活の軸や会社選びの軸などを聞くことがありますが、ここで言う「軸」はアイデンティティのことです。
自分らしさや、自分が大事にしている価値観を持っていることが、リアリティ・ショックが起こる原因の一つに考えられます。
ただ、このアイデンティティを持つこと自体は悪いことではありません。
ある程度のアイデンティティを持つことは大切ですが、これが強すぎると「私はこれしかやりたくありません」という柔軟性のない状況に陥ってしまいます。
しかし、キャリア教育や就活での経験から、自分のアイデンティティを意固地に決めてしまい「捏造されたWILL」を持つ方も少なくないのです。
Z世代が価値相対主義がゆえに起こる副作用
今の若い方はZ世代と呼ばれていますが、彼らは「世の中はこうでなければいけない」と考えることを嫌う価値相対主義であることが多い印象です。
価値相対主義も悪いわけではありませんが、副作用が問題だと考えられます。
価値観が多様化したことで判断基準が曖昧になり、何をすべきか分からなくなった人はその状況からの逃避行動を取ってしまいます。
逃避行動は二つあり、一つは他者の承認によって自己選択の正当性を確保すること。もう一つは根底の部分がないままのキャリアデザインにしがみついてしまうことです。
しかし、社員が曖昧なままのキャリアデザインにこだわっていると、リアリティショックを受け、早期退職することになりかねません。
また、現実と違うからといって辞めてしまう人が多いままでは、オンボーディングもうまくできないでしょう。
キャリアに関する先入観の「白紙化」も必要な時代
リアリティショックを防ぐために、キャリアに関する先入観の白紙化が重要です。
これまでは「キャリアデザインをしろ」と言われ、無理矢理に考えていた状況もありましたが、今は「どんなことでも目の前に出てくるものをとりあえずやってみよう」と考える時代になりつつあります。
捏造されたWILLによってリアリティショックが生まれていたので、それを白紙化できるように仕事の魅力の均質化を図ったり、ロールモデルとして先輩社員の姿を見せたりすることで、自分が考えていたこと以外の道に気づけるのではないでしょうか。
また、クランボルツ氏が提唱した「計画された偶然性理論」についても紹介しておきます。
これは、明確にキャリアデザインを決めた人だけが素晴らしいキャリアを歩んでいるわけではなく、むしろオープンマインドで目の前のチャンスをものにできている人の方が良いキャリアデザインを実現できているというものです。
「やりたいこと」より「できること」
社員のやりたいことは大事ですが、20代の新入社員にとっては能力開発の方がキャリアを描いていく上で重要なベースとなります。
しかし、キャリア教育の中で、やりたいことや価値観に関する話しばかりになってしまうと、「自分ができること」に目が向かなくなってしまうのです。
これでは、やりたいことが見つかった時に“自分にできること”が伴っていなければ、実現することが難しくなってしまいます。
つまり、できること「CAN」を増やし、目の前の仕事でさまざまな貢献をし、成果が出た時には承認欲求も満たされることが大切です。
自分が行ってきた仕事やこれから関わる仕事を通じて、やりたいこと「WILL」が自然と生まれてくるように会社の体制を整えることが、オンボーディングをサポートするキャリアカーになると考えています。
【第3章】入社「前」と「後」のオンボーディング
それでは、具体的にどんな流れでオンボーディングを進めていけば良いのかをご紹介します。
オンボーディングは入社前から始まっている
まず皆さんに確認しておいてもらいたいのが、「入社前からオンボーディングが始まっている」ということです。
先ほどご紹介したリアリティショックは、理想と現実のギャップによって生まれるものです。
現実というのはなかなか変えられないものですが、新入社員の理想はコントロールできる余地があります。
そこで、入社前の期待値を調整すれば、リアリティショックを低減させられるのです。
オンライン採用では信頼関係を築きにくい
コロナ禍に入り、オンライン採用を行う企業が多くなりましたが、このオンライン採用はオンボーディングにとってはマイナスに働く可能性があります。
というのも、オンラインでは話者交換のためのアイコンタクトを取ることが難しく、会話がしにくくなってしまうからです。
採用活動の中では、“自分の能力を発揮できたこと”や“自分のことを理解してもらえたという受容感”が欠かせませんが、このオンラインでは難しくなっています。
採用プロセス内で「相互理解」の場の重要性が高まっている
オンボーディングを始める初期段階として、採用プロセスの中で相互理解の場を作ることが重要だと捉えています。
これまでは、能力や性格を評価して自社に合うかどうかを判断することが一般的でした。また、企業の中には会社や仕事に関する情報を提供するだけで済ませているところもあるでしょう。
しかし、オンライン採用の場合は、相互理解を通じた信頼関係の醸成を図らなければ、オンボーディングのベースとなる信頼関係が築けません。
また、内定承諾がエンゲージメント獲得と認識している方もいますが、必ずしもそうではないということを把握してもらいたいです。
内定ブルー
内定受諾についてもう少しお話しすると、新入社員の「内定ブルー」という状況が考えられます。
キャリア形成というのはいくつかのステップに分けられますが、内定受諾した後というのは、「終焉」から「開始」までの「中立圏」に位置しています。
本来であれば内定獲得は嬉しいことであるはずが、鬱々としてくる状態が内定ブルーなのです。
会社に入るというのは、さまざまな選択肢や可能性があった人が、他の可能性を全て捨てて入社するということです。
そのため、入社を決意した後で一抹の不安を抱えることは珍しくありません。
そこで、オンボーディングの最初に、この内定ブルーへの対処を講じていく必要があると考えています。
採用担当者の自己開示
内定ブルーへの対処として、まずは採用担当者の自己開示が挙げられます。
採用担当者は、相手のことはよく聞く一方で、自分のことを話すことは多くないでしょう。
「自己開示」のチャンスとしての入社動機
自己開示がないと、相手にとっては得体のしれないまま選考が進んでいくことになるため、担当者が自身の入社動機などを伝えて相互理解を深めるのも一つの手です。
なぜこの会社に入ったのか、自社のどこが好きなのかといった話しのほか、自分の生まれた環境や出来事、影響を受けた人などの話しをしてあげることで、採用担当者のライフヒストリーを伝えられます。
非言語コミュニケーション現象への対応
また、非言語コミュニケーション減少への対応も考慮しておきたいポイントです。
オンラインでのやり取りでは、オーバー気味であっても表情やリアクションを交えて、伝わりにくい感情を伝える努力をしてみてください。
採用担当者や内定者チームをパーソナリティでマッチング
続いて、メンターとなる社員と新入社員の相性も考慮しましょう。
人間関係は「同質」「異質」「補完」の3つに大別されます。
互いに似ている場合は同質で、違っている場合は異質です。また、異質の中でも補い合える関係性が補完です。
新入社員とメンターの関係性をきちんと把握しておくことでマッチングに役立てられ、オンボーディングを進めやすくなるでしょう。
内定者のチームビルディングのワークショップ
入社を控えた方は、事前に会社の情報を集めてから内定承諾をしていますが、調べても分からないことがあるために内定ブルーに陥ることも少なくありません。
しかし、同じ内定者同士で理解し合い、どんな人が一緒に入社するのかを把握しておくだけでも内定ブルーは緩和されるでしょう。
オンボーディングの最初のステップとして、採用時からこうした取り組みをしていくことが重要なのではと考えています。
RJP(Realstic Jpb Preview)
採用前のオンボーディングの二つ目に、RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)があります。
リアリティショックをなくすために、理想と現実の差をなくすことをお伝えしましたが、良い面・悪い面を含めてRJPで会社の状況を提供すれば、この差がさらに縮まると考えています。
実際、RJPを行うことで、入社後の離職が抑制された事例もあります。
RJPの実践的なポイント
しかし、内定ブルーの時にRJPを行うと、新入社員にとってマイナスに働く可能性があります。そこで、内定ブルーを解消させられるような信頼関係を気づいてからRJPを行ってください。
また、事実を伝えるといっても、ネガティブすぎる内容はポジティブな表現に変えたり、相手によって提供する情報の内容を変えたりと、工夫を凝らすこともポイントです。
入社後のプロセスはまず「受容」、その後に「有能感」
続いて、入社後にどのようなことをすれば良いのかを説明していきます。
冒頭でお話しした5月病や6月病と言われる期間にも合致しますが、入社から3ヶ月は職場の仲間に受け入れられたと感じる「受容感」が大切です。
また、自分が入った会社で仕事をやっていけるかどうかという「有能感」を感じるまでには、半年ほどかかります。
しかし、最初の3ヶ月で受容感を持てなかった場合、有能感にたどつけないという研究結果もあります。
そのため、入社してすぐの社員には、急いで仕事に対する有能感を求めないことが肝心なのです。
相性的に理想の配置ができなければ
社員のパーソナリティを考慮した上でのマッチングが重要ですが、全ての社員に対して理想の配置ができるわけではありません。
仮に、配属された部署で上司と合わないなど、理想の配置ができなかった場合は、要ケア人材としてマーキングします。
そして、相性の良い先輩社員とメンタリングさせたり、短期間に人事がフォロー面談を行ったりといった方法でサポートすることが大切です。
たとえ配置が合致していない状況でも、フォロー体制を整えることでオンボーディングがしやすくなるでしょう。
【第4章】新人が身につけておくとよい力
ここまでに紹介したオンボーディングの環境整備がメインの内容ですが、最後に新人が身につけておくとよい力についてお伝えします。
新人自身にもつけさせるべき力
「自己認知力」や「意味づけ力」のほか、角が立たないように主張する「アサーティブネス」を身につけておくことで、初期の能力開発をスムーズに行えます。
それぞれ詳しくご説明します。
「自分のことがわかっているか」(自己認知)
まず自己認知ですが、自分のことをきちんと理解していないと、できていないことを「できている」と思ってしまいます。こうなると、勉強や努力といった改善のための行動を取らないため、社員の成長は見込めません。
また、自分の特徴を押さえていないと、他者との協業ができないために、チームワークもうまくいかない可能性があります。
適切なフィードバックによって自己認知を高める
自己認知を高めてもらうために、他者からのフィードバックは大切です。
ただ、信頼関係が構築されていなければ、ネガティブなフィードバックを受けることに対して、大きな抵抗が生まれてしまいます。
本人が気づいていないダメな部分があったとしても、まずは関係性を築き上げてからフィードバックを行ってください。
「意味づけ力」の醸成
意味づけ力については、こちらのスライドを例にご紹介します。
これを見た時に「レンガを積んでいる」「家を建てている」「大聖堂を建てている」など、人それぞれに解釈が異なります。
仕事に対する意味づけも同じことが言えるため、マネージャーや先輩社員がきちんと意味づけしたり、新入社員が自身で意味づけできるようにコーチングしたりと、どんな仕事でも楽しめるようなサポートが必要です。
アサーティブネス
新入社員、特に新卒で入ってくる方は社会人経験がありませんが、何に対しても「はい、わかりました」と従順になる人もいれば、攻撃的な態度を取ったりする人もいます。
そうした受動的な人や攻撃的な人には、アサーティブネスを身につけてもらうことが重要です。
これは、「自分と相手を尊重した上で、自分の心の中を開示することを恐れず、自分の意見や気持ちをその場に適切な言い方で表現すること」です。
つまり、うまい自己主張のやり方をトレーニングしてあげることが、社内での人間関係構築にも繋がってくるのです。
自己認知力や意味づけ力、アサーティブネスのトレーニングを、内定者教育や新人教育のタイミングで行なっていくことも、オンボーディングの大事なポイントだと捉えています。
社員の定着や成長などは環境要因もありますが、新しく入ってくる方に能力や自信をつけてもらうことで、その後のオンボーディングもやりやすくなるのではないでしょうか。
質疑応答
Q. テレワークだと受容感を上げるのはオフラインよりも難しいような気もしております。受容感を高めるポイントなどあるのでしょうか?
日本人は、基本的にハイコンテクストの文化。「阿吽の呼吸」とか「空気を読む」「以心伝心」などですね。特にマネージャーは言葉にしない人が多い。
また、いいねとか褒めるのが苦手な人も多いと思います。
例えば、部下がどんなに良いことを言っても「良かったよ」くらいの感想で終わらせることがあるのではないでしょうか?
その時に生じた感情をきちんと言葉にして伝えていくという「新たな言語化能力の向上」がマネージャーとしてはすごく重要です。
テレワーク化で非言語コミュニケーションが減ってしまうのは仕方ないので、言語化能力を高めて褒める力を磨く。これに尽きると思います。